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【ゲネ感想】劇団晴天『朝をつれてこい』奪われたとき、そこにあるのは何だろうか?

こんにちは!木村恵美子です。先日の『遠くまで来たんだ』に引き続き、今回は現在公演中の劇団晴天2本立て本公演のもう一本、『朝をつれてこい』について書きたいと思います。前回同様、大きなネタバレは▼のようにボタンで開閉できるように隠してありますが、全編地味にネタバレしておりますので、ネタバレしたくない方は観劇後にご覧ください。

木村恵美子って誰よ?
私を知らない方のために自己紹介をしますと、
木村恵美子と申します。kazakami(カザカミ)という劇団?ユニット?を主宰している劇作家・演出家で、大石くんとは王子のDWS(ディレクターズワークショップ)で出会いました。近年ではこまばアゴラ劇場の演劇学校、無隣館に参加して、そこで演劇の勉強をすると共にWEB企画として写真と稽古場日誌を書くWEBメディアを運営してきました。それももう1年になります。それでその流れで、似た活動をもっと外でも出来ないかな、と考えているところで、大石くんからお声掛けいただきました。あと、最近はあんまり貢献出来ていませんが、アマヤドリという劇団で劇団員として演出助手に明け暮れてもいました。まあ、その、なんだ、演劇バカの一人です。

そもそも劇団晴天って何?みたいなことも書いてある『遠くまで来たんだ』についての記事はこちらからご覧いただけます。

【ゲネ感想】劇団晴天『遠くまで来たんだ』 優しく在りたいと思えば思うほど、傷つけて、傷ついてしまうならば。えっと、なんやかんやありまして、大人になってから出来た劇作家のお友達、大石晟雄(おおいしあきお)くんの劇団、劇団晴天の2本立て公演、『遠...

さて、『朝をつれてこい』について……。
この作品は、佐藤佐吉賞2015優秀脚本賞を受賞した、劇団晴天の作・演出の大石晟雄(おおいしあきお)くんの代表作なんですが、あの、まず、結論として申し上げたいのが……。

マジで面白いし代表作に相応しすぎるし、っていうか今回の台本改訂めっちゃ効いてるじゃないですか……!

です。(長い)

面白いです。しかもその面白さ、『遠くまで来たんだ』とは別種です。両方観劇する価値、あります!!
でも、『遠くまで来たんだ』に同じく、『朝をつれてこい』もみんな「優しい」です。「優しい」からこそ、行き詰って、壁にぶち当たって、身動き取れなくなって、で、その先でどうする……!? という、そこでいかに前に進むか、自分なりの朝を見つけに行くか、という、お話です。

大石くん曰く、かつて劇団を解散した後に書いた本とのことで、
「怨念がこもった本」
と言ってました。

その怨念が戯曲全体に満ち満ちて、俳優もそれを引き受けて……、いるんですけど、ここでさらに再演の強み!
“執筆当時の自分と距離が取れている”
というのがめちゃくちゃ効いてきてます。冷静に、戯曲の可能性を伸ばして、かつ、いらないところを整理していっているんだと思う。若さや、葛藤や、荒々しさは残しつつも、そこからの4年間の成長でそれを整理する。当時手放せなかったことも手放すことが出来た、んだと思う。
それで、今回おそらく俳優陣の覚悟や相性もおそらく作品が面白くなっている要素の一つで。
実際私が観に行った通し稽古からゲネの間に、俳優陣が劇的に良くなっていたんですよ。いや、通し稽古の時点でかなり面白かったんですよ……?今回舞台が関西であるが故にほとんどのセリフが関西弁で書かれていて、稽古序盤から関西出身の出演者の協力で関西弁の指導をずっと入れていたそうなのですが、ゲネではその関西弁の定着度が全く違うように見えました。ブレイクスルーでも起きたのか?と。そして、セリフが届く届く……。こんな体験初めてだったので、ゲネプロを拝見して凄い感動しました。

じゃあそろそろ本編について書いていきたいのですが、今回何を書いてもネタバレになりそうなので、慎重に隠しつつ進めていけたらと思います。まず、この作品の主役である”地元に戻った映画監督”。小川哲也さん演じる”大友涼介”。
彼はある理由から脚本が書けなくなり、関西のとある町、地元に帰ってきています。 そして彼の兄の店である定食屋「あげは」の2階に居候している。

撮影:保坂萌

なんという存在感のある俳優さんだろうか。声も、目も強い。でもその奥、内から葛藤が絶えず滲み出る哲学者のような身体。こんなにもこの役の背景を想像させる俳優がいるだろうか。めちゃくちゃ素敵なキャスティングだと思う。通し稽古の時よりもその滲み出る葛藤が増していて、すっかり引き込まれてしまいました。

 

そして彼の幼馴染である、商店街の面々がやってきている。彼らのキャラクター自体がネタバレに直結するためあまり詳しくは書けませんが……。

序盤とか特に”大阪っぽい!”グルーヴ感のあるやり取りが繰り広げられるんですけど、めっちゃテンポ早くてすっごいなあ、と思っていたら、みんな関西出身らしい!凄い!血だ!

まず乾物屋の若旦那、函波窓(かんなみまど)さん演じる鉄男、
3人の中で最もエネルギーがあり、また演技の幅も広い!おちゃらけからド真剣なシーンまで、”鉄男”の軸は決してぶらさず、2つの物語の中心を駆け抜けていきます。鉄男、幸せになってほしい……。

撮影:保坂萌

実家がコンビニを運営していて、今はコンビニ店長をしている、木村聡太さん演じる浩二。
木村聡太さん、木村さんが演劇を始めたころにお会いしたんですが、めっちゃ上手くなってる!! 母語の関西弁のセリフ、というのもあるんでしょうけれども、佇まいが全然違いました。現代っ子で柔らかそうな容姿に反し、中に熱いものをちゃんと持っている人なんだなと感動しました。
木村さん演じる浩二もそんな役。一見ふらふらしているようで、しっかり芯と葛藤を持ち合わせています。「小学校からコンビニ店員」ってセリフがあるんですが、長い間逃げずに家業に向き合い、一方で期待に反して裏切られ、なんとも言えない立場にいます。

撮影:保坂萌

今は調理師をしている、西竹巧弥(にしたけ くみ)さん演じる小夜子。
小夜子は調理師としてお勤めをしているらしく、家業を継いだ鉄男や浩二とは少し異なる立場であるようです。だからこそ、のセリフも出てきます。鉄男とは恋人同士で、あることから夢を奪われた鉄男をとても心配しているようです。とてもしっかりしている彼女ですが、物語中盤から予想外の動きをしていて面白いです。しかしとにかく可愛い……。関西の女の子って感じでコロコロ笑って、とても好きです。

撮影:保坂萌

彼らはまるで昔のように映画監督、大友涼介の滞在している部屋に集まっています。
察するにきっとそれまで大友はあんまり地元に帰ってくることはなかったんじゃないかなと思う。東京で生活していた大友と、地元で生活をしていた幼馴染3人。きっと久しぶりに会ったんだろうに、「大友が脚本が書けなくなって帰ってきた」と知った3人は、大友にある提案をする。そして大友のもとに毎日3人で仕事の合間に通ってきている。まるで子供のころのように。友達っていいよね、友達ってそうだよね、と思える光景。

ちなみに、東京のベッドタウンで育った私木村には、”地元を出ていない”人はいても、彼らみたいな、”地元を支えていく”ような判断をした友人はいなくって、うまく言い表せないけど”地元を出られない”みたいな友人はいなくて、みんな東京とか、ちょっと栄えているエリアやまたは全然違う場所に働きに出ていて。それは私自身の友好関係の狭さだとか、高校から地元を離れてしまったこととかが関係してくるのだけど、ともかく、きっとそういう友人の存在があれば、”地元に帰ってくる”だとか、”地元が受け入れてくれる”みたいな感覚ってあるんだろうな、と推測する。大学を卒業して実家に帰った時、結局活動エリアがほとんど変わらなかったことに、今改めて驚く。だから、こういう、地元に帰ってくる感覚を描けることをちょっとうらやましいと思う。どんな感じなんだろうか。

でも、そのうち幼馴染の3人それぞれにもどうしようもない事態が起きて、それでも大友の元に通うもの、それどころじゃなくなるもの、色々いて。でも、「辞めたくない」「辞めさせたくない」「前を向くしかない」そんな想いが重なって、彼らはそれぞれに大友の元に通い続ける。

途中で大友の東京の友人で、中崎正人さん演じる俳優の”タク”がやってくる。

撮影:保坂萌

個人的に……、中崎さんは小劇場界隈では珍しいタイプの俳優さんだと思います。とても、誤解を恐れず言うと”普通”な感じ。勝手な偏見でこういうタイプの俳優さんは映像界隈にいるか就職してしまうイメージなので、なんかもう、役としてのタクが言っていることのすべてが腑に落ちるようで、妙な気分になります。良いキャスティングだと思う。
彼は作品上、”東京での大友を知るもの”として描かれます。地元のみんなが知らない情報を持っていて、そして地元のみんながもっている情報を知らない。タクは何日か滞在して、彼らに協力することになっていく。

彼らは大友と映画を撮っています。リハビリ代わりに。
脚本が書けなくなったと帰ってきた大友に彼らが提案したのは、
“自分たちを使って脚本を書くこと”
でした。
そしてこの作品では、関西弁による日常のパートと、標準語による劇中劇のパートが同時進行していきます。
劇中劇自体はよくある手法ではあるんですけど、関西弁と標準語による虚実の切り替え、”当て書き”という設定を生かした登場人物とのリンク、映画を撮ること自体への登場人物の葛藤など、さまざまな要素がかみ合いながら、「発明」と言いたくなるレベルの完成度でグイグイ引き込んできます。「カメラを止めるな」的面白さもあると思う。この、両方とも観客にとってはお芝居なはずなのに、不思議と次々にピースがはまっていくような独特の感覚は、是非劇場で味わっていただきたいと思っています。

彼らがやっていること、と、彼らがおかれている状況、の見事なリンクは、この作品の特に上手く書けてるところだと思うのです。とても、観てほしいです。

それから、他の登場人物についても書きたいと思います。
まず、小川さんの役”大友”の兄の妻である”あげは”を鈴 真紀史さんが演じています。
若手の多い座組の中で、鈴さんがいらっしゃることでグッと作品に深みが出るんだと思います。それは戯曲上もだし、俳優としても、だと思います。役としても俳優としても、基本的にはずっと安定して立っているように見える存在。なのに、それが揺れる瞬間が来ます。特に私はあげはさんが夢について語っているところがとても好きで……。あのセリフはかなりグッときました。

撮影:保坂萌

そしてその娘、大友の姪っ子”りんご”を谷川清夏さんが演じます。
“りんごちゃん”は中学2年生なんですが、ここまで違和感なく中学生役をやってしまう谷川さんマジで凄いです……。

撮影:保坂萌

りんごちゃんはちょっと変わった子で、あげはさんは彼女の小さいころから大分苦労をしたようです。中学2年生になった今、あんまり学校には行っていないようです。彼女も日々物語を作って遊んでいて、将来は絵本作家になりたいと。
叔父の大友になついて、大友とその友人たちに紙芝居を披露したりもしています。
詳細は伏せますがとにかくいろんな方向に若いエネルギーが溢れる役。私は目が離せませんでした。

それから、りんごちゃんの担任の先生が、詩萌(しほう)さん演じるともみ。

撮影:保坂萌

数学教師で、大友たち幼馴染四人衆の同級生です。大友の元カノでもあるらしい……。
学校を休みがちなりんごを心配して、何度も定食屋に現れます。登場時はたいてい仕事で疲れ切っていて、大変そうです。時折愚痴をこぼしながらも、脚本に教師を登場させていた大友に教師について語るシーンはその想いの強さを垣間見ることが出来てとても素敵です。大友とともみがかつて付き合っていたという設定は今回の再演にあたって追加になった設定とのことなんですが、正直信じられないくらい効いています。大石君、すごい大発見だよ……。
大友もともみもお互いについて劇中ではほとんど何も語りませんが、少しずつ距離感に何かが滲み出る演出になっていて、私は好きです。

ネタバレなので隠します。:あげはさんのこと
あげはさんは、実は旦那さん(大友の兄ですね)を最近亡くしています。そして今定食屋「あげは」は休業中です。
あげはさんとりんごちゃんはその悲しみを抱えながら、”次どうしていくか”を考えているようです。
学校に行かないりんごちゃんを心配して、元気でいてくれるなら、と話しながらも「自分もいつかはいなくなってしまうのだから」と葛藤しているあげはさん。そんなあげはさん(とりんごちゃん)を、りんごちゃんの担任でありあげはさんの友人でもある”ともみ”はとても心配しているようです。
ネタバレなので隠します。:ともみのこと
りんごちゃんを心配しているともみですが、自身も学校で上手くいっていないと感じているようです。嬉しいことも、楽しいこともあるけれど、朝は早く、夜は遅く、報われないことばかり。でもそんな彼女が物語の後半に向けて得て、そして語っていくことは、暗闇の中での小さな希望である、と私は感じます。

この作品の登場人物たちは、みんな何かを奪われて、それでも前を向こうとしています。ある事情から脚本が書けなくなった大友は、帰ってきた地元でそんな様子を目の当たりにします。もうすぐ開店するデパートの存在も、彼らが住む商店街に打撃を与えていました。

「この街な、失敗して、あきらめて戻って来る場所ちゃうからね。ここでみんな普通に生きとるからね」

このセリフは、チラシにも掲載されているけど、とても象徴的なセリフで、そして、このセリフがあることが、グッとこの作品を観客に寄り添ったものにしている気がする。

でも、失敗したとき、奪われたとき、私たちはどうしたら良いんでしょうね?

そういう意味で、この作品の登場人物たちを、少しうらやましいとも思う。どんなに目をそらしても、どんなに逃げても、一人じゃなかったから。きっとこれを書いた大石君自身もそうだったんじゃないかな、と思う。一人じゃない。私たちは、もう一度、戦える時も、戦えない時もある。私ももう、笑っちゃうくらい挫折ばかりの人生なんだけど、確かに、誰かが居てくれたから立ち直れたなと思う。一人じゃない。一人じゃないぞ。でも、挫折の代わりに何を得たか?っていうのは、まだ、つかみ切れてはいないけれど……。

この作品ばかりは、何を書いても、これを読んだ人から初見の楽しみを奪ってしまう気がして、どうにも上手く書けませんね。特に幼馴染のメンバーについて……。今回、私が言えるのは「観てほしい」に尽きると思います。観てほしい。
私は大石くんを良い作家だと思っていて、作品を観るたびに良いなあと思っていて、Twitterで先日こんなことも書きましたけれども。

前におすすめの劇団を聞かれて劇団晴天を推してる時に、
「とっとと賞でも取って売れてくれ」って感じ?
って聞かれたんですけど、本当にそれで、いや、大石くんがそういうのを望んでいるかはわかんないんですけど、でも、うん、そう思っているくらい、おすすめなんですけど、いろんな要素が重なった結果『朝をつれてこい』は是非観てほしくて。『遠くまで来たんだ』もそうなんだけど。『朝をつれてこい』は特に”作る人”たちにおすすめで、特に、学校を出て何年か経っている同世代の人たちに、観てほしくて。私はライバルなんて関係性より、同時代を戦う同志だと思っているけど、同世代の人たち。我々はそれぞれに戦ってはいるけれど、でも、一人じゃないぞと。みんなで戦い続けるぞと。

演劇作るって、『朝をつれてこい』で書かれていることもそうなんだけど、本当にエネルギーのいることで、そして作る側も歳を重ねることで良くも悪くも変わってしまうことがあるから、同じ作品なんて二度と出来なくて。私たちの年齢でも沢山の作り手たちが辞めていって。だから、観てほしくて。『朝をつれてこい』は年齢を感じさせない(初演4年前て……)完成度の高さがあると共に、作家が若いことに、まだ戦っている年代であることに、とても意義のある作品だと思うから、今、観てほしいです。この文章、数年後に恥ずかしくなってるかもだけど、それでも推します。

なんて、これを書いている今も見たい芝居を見損なっている自分が言えることじゃないんだけど。でも、それでも。

観たいと思っていただけた方、公演は目白のシアター風姿花伝にて、5月18日(土)~5月26日(日)までです。
公演詳細はこちらからご覧いただけます。

当日券情報などは劇団晴天Twitterからもご覧いただけますので、もしよろしければご覧ください。感想まとめなども作っているようです!(ネタバレ注意)

長々書いてしまいましたが、お付き合いいただき、ありがとうございました!
最終日まで、応援しております!!!!

P.S.
そして『遠くまで来たんだ』でも書いたんですけど広報助手の子が作ったこれがめちゃくちゃ凄いです……!
これ、毎公演あったらいいなと思うやつです……。周辺のおすすめお店情報!


せっかくだから両作品ご覧いただきたい今回の公演!はしご観劇は立地によっては食事を取る場所に困ってしまうことも多いですが、今回このマップがあれば怖いもの無しです。目白、おいしいものいっぱいあります。(個人的には椎名町の”南天”もおすすめです)

2回券(6,000円※1000円お得)や、フリーパス(見放題!)もありますので、観劇って決して安いものでは無いのですけれども、2作品観劇、ご検討いただけたら嬉しいです!