えっと、なんやかんやありまして、大人になってから出来た劇作家のお友達、大石晟雄(おおいしあきお)くんの劇団、劇団晴天の2本立て公演、『遠くまで来たんだ』/『朝をつれてこい』のゲネプロを観て感想を書いてほしい、と頼まれましたので、じっくりじっくり、書いていきたいと思います。大きなネタバレは▼みたいなボタンで開閉できるように隠してありますが、全編地味にネタバレしておりますので、ネタバレしたくない方は観劇後にご覧ください。
さて、『遠くまで来たんだ』の話をしましょう。
この作品には、「優しい」人しか出てきません。けれども、同時に、優しさの厳しさを思い知るような気がしました。
「優しい」から、人を傷つけて、「優しい」から、自分を傷つけて、「優しい」から、苦しみを隠して。大石くんも「優しい」人なので、きっとそういうことで苦しんでも来たんだろうな、と思いました。
まず、主軸になるのは主演の中野智恵梨さんの”遠野千夏(とおのちなつ)”と、きずきさんの”まもり”のライン。2人はルームシェアをしていて、きずきさんの役は家から出られなくなっていて、でも2人で明るく生きている。その「明るさ」が、その、誤解を恐れずに申し上げますけれども、「女性らしくない」のがとても良いと思いました。
あくまで私の偏見ではありますが、こう、よくあると思うんですけど、男性が女性を、女性が男性を書くと、実態よりさっぱりする、みたいな。逆に、ジェンダーが協調されるみたいなパターンもありますが……。いずれにしろ、”実態から少しずれる”わけです。
で、それをその女性の役なら女性に観てもらった時に、共感を得られるか、もっと言えば、好感を持ってもらえるか、というのは結構作家にとって勝負だし、センスが問われるところなんですよね。特に男性が書く女性は、批判を受けることも多いと感じます。
で、私はこの大石君の描く女性二人を、とても好感を持って観ました。
(私自身、同性の友人とのルームシェア経験があるんですけれども、うまくいかなかった思い出もあり……。)
慎重派な中野さんの役に、無邪気に見えて繊細なきずきさんの役、二人が作り上げるそれぞれの役割がとても美しく思えて、大石君の書いた「破れ鍋に綴じ蓋」はとても良かった、と私は思いました。
撮影:保坂萌
それから、きずきさんの役”まもり”と加藤さん演じるきずきさんの役の弟”正護(しょうご)”の関係性。これが私にとってはじくじく痛むものでした。
仕事に行けなくなった姉とその姉に仕送りをする大学生の弟……。両親は他界……。
上手く立てない姉をバイトと学業に励みながら支えてってどんだけだよー……。盛りすぎやで、と思いつつ、現実はもっと過酷な事態だってあるものですから、軽々しく、盛りすぎなんて言えない、よな。私も学生時代、驚くような境遇の人とも会ってきた。
本当だったら遊んで暮らしたい時期に姉を支えて。今回の加藤さんの役はその役割に圧し掛かるであろう責任やストレスも描いていて、姉と弟の役割がほんとに、じくじくと、痛いです。この弟役の加藤さんは大石君の演出で拝見するのが4回目なんですが、毎度全然存在感が違って、役者本人を感じさせることの少ない俳優さんで、毎度感心してます。
きずきさん、恐縮ながら初めて拝見したのですが、あの元気さと個性の中のあのどうしようもない切なさ、まもりにぴったりだと思います。
あと個人的にこの2人の身長が兄弟っぽいバランスになってるの、好きです。
撮影:保坂萌
そして、その加藤さんの役と大学の同級生”飛田(とびた)”を演じている宮口さん。
面白いの、いる!!!って感じです。
どっちかというと意識高い系。ザ・現代っ子な感じで描かれている飛田ですが、いい感じにコメディ担当として活きてます。
この役、簡単そうに見えてここまで成立させてくるのはなかなかの個性と胆力ですぜ……。
個人的には知り合いの制作さんに雰囲気がめちゃくちゃ似ていて、初めて拝見したときに誰に似ているのかわからなくて30分くらいモヤモヤしておりました。今度会わせてみたいな……。
撮影:保坂萌
あとは梅棒の櫻井さん演ずる”城之内(じょうのうち)”。中野智恵梨さん演じる”遠野千夏”の恋人です。
若くして自分のお店を持っている料理人。千夏とまもりがルームシェアする家に毎日その日の残りを持ってきてくれます。
自分のお店が大事な仕事人間。ですが、千夏とまもりとの関わり合いの中で、人と関わり続けようとひそかに努力している人です。この役は地味に不器用で地味に口下手で、ああもうじれったいな! という気持ちに要所要所させられております。
そして、その櫻井さんの役をはじめ、全体を動かす役割の役、湯浅くららさん演じる”桃ちゃん”、中野智恵梨さんの役、”遠野千夏”の会社の後輩です。この役が面白いです。
撮影:保坂萌
職場にこういう人が居てくれたらいいよねえ、みたいなみんなの理想。
物語の登場人物は多くの場合、作家の一面をどこか持ち合わせているものですが、私から見える作家・演出家の大石君のポジティブな一面を抽出したようなキャラクターな気がします。
大石くんは、誰かが壁にぶつかって困っている時に、他の人が躊躇してしまうような状況であっても、「大丈夫か!?」と声をかけていける人で、それめっちゃ長所だなあ、と思っているんですが、桃ちゃんはそういう人です。大石君より大人かもしれないですが← 以前通し稽古で拝見した時よりゲネでぐっと良くなっていて、とても良かったです。
それから、もう一つのラインは、遠野が劇中で滞在するペンションの人々。
まず北海道でペンションを経営するのが、鈴木あかりさん演じる”滝本リカ”。両親からペンションを引き継ぎ、若いながらにペンションを切り盛りしています。
撮影:保坂萌
ペンションで提供する料理も作っているし、美人キャラだし、戯曲上も”いい女”だし、「おいおい、天は何物を与えるんすか……。」という役です。こんなペンション、実在するならめちゃくちゃ行きたい!と思いました。そこに、バックパッカーでリカの恋人でもある、万代竜一さん演じる”河本平助(通称こーちゃん)”と、三浦葵さん演じるバックパッカー、”相川光(通称あいちゃん)”が居て、それぞれに生きる場所を模索しつつも、楽しく、生活しています。
撮影:保坂萌
撮影:保坂萌
詳しくはネタバレになるので隠しますが、この人たちも、どこか寂しさをもちつつもとてもやさしくて、特に、多くを語らないあいちゃんの存在が、私は気になって仕方ありません。しかし万代さんは本当に外見が旅人っぽい(健康的!)んですが、何かされてたんでしょうか……。
ともかく、ともかく。みんな優しくて、みんな迷って、みんな傷ついて、でも、それぞれに自分を取り戻していく、っていう、そういう、お話です。
撮影:保坂萌
中野智恵梨さん、ちーさんはちーさんが演劇を始めたころから知っているから、ああ、もうめっちゃ上手くなったなあ、ちーさん演劇やってくれてよかったなあ、と改めて、思っています。格闘を見てきたから、感慨深いです。演劇は大変なことも悲しいこともあるけど、ずっと応援してます。また一緒にやりたいです。ちーさんは私にとってとてもお世話になったお姉ちゃんみたいな存在で、今回久しぶりに会えて、前みたいに話せて、とても嬉しかったです。通し稽古と、ゲネと観て、今回大石くんがちーさんにこの役を任せようと思った直観は正しい、と私は思っていて。千夏の、役の質感が好きで。だからこそ、千秋楽まで、もっともっと磨いていってほしいなと、思っています。
これを書いている私自身、「他人のため」ばかりで結局自分がしんどくなってしまうことが人生で何度もあって。それまで上手くいっている、と思ってもだいたいどこかで「やりたくない」が顔を出してしまって。裏切るって程ではなかったと信じたいけど、自分自身も、他人も、傷つけてしまってっていうことが何度も何度もありました。優しく在りたいと思ったがために、優しく在れない。
で、最近になって自分の気持ちを優先させて生きるように変えて、気づいたんですけど。
結局、「本当に優しく在り続けるためには、自分を大事にしないといけない」っていうのは、本当なんだなと。
で、これは私は今上手く言語化出来ないなっていうのに今ぶち当たったんですけど、でも、たぶんこの作品は「寂しさ」を描くとともに「優しさとは何か」という問いを一貫して持っていて、いろんな立場でそれを語って、悩んで。そしてみんなが自分の優しさを見直して、その先でも共に生きていく作品です。場所はいつでも変化していくから、この作品がこういう結末であったことは、私にとってとても救いでした。……しかも「優しさとは何か」をうまく表しているセリフが、2本立てのもう一本『朝をつれてこい』にもあって。優しいって難しいなあ、と改めて思ったゲネプロ体験でした。優しくありたいです。私も。
ちなみに。今書いてるこれ、大石くんに頼まれはしたけど、私がやりたいからやってます。大石くんと大石くんの作品が好きだからこそ出来るのであって、誰に対しても出来るかはちょっとわからないな、と思う。でも、これは公演への協力という一種の優しさでもあって、うん、「まず自分を大事にしたうえでの、優しさ」です。たぶん。
そういえば私、こんなことも書きましたけど、
最近切実な問題として、演劇観るだけの日はどんな作品でも受け入れられるけど、なにか用事があって疲れた状態で夜観劇に行くの、演劇関係者のくせして結構しんどかったりします。頭使って観る系だと、特に。でも「遠くまで来たんだ」は、そういう日でも観れる作品だと思うのです。少なくとも私は。
— 木村恵美子 (@lo0__0ol) May 16, 2019
演劇というのは生身の人間がそこにいるからこそのパワーがあって、だからこそ強い葛藤を伴う作品は観るだけでも持っていかれてめちゃくちゃに疲れてしまうこともあるんですけど、でも、この作品は優しさの作品だから。葛藤のない作品ではないし、見ながら向き合うものも、考えることもいっぱいある作品だと思うけど、それでも、日々、疲れていても、やさぐれていても、きっと寄り添ってくれると思うから、演劇って疲れるなって思ってしまっている人にも、観てもらえたら嬉しいです。必要な人に、届いたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。
観たいと思っていただけた方、公演は目白のシアター風姿花伝にて、5月18日(土)~5月26日(日)までです。
公演詳細はこちらからご覧いただけます。
当日券情報などは劇団晴天Twitterからもご覧いただけますので、もしよろしければご覧ください。
Tweets by 25wayp
長々書いてしまいましたが、お付き合いいただき、ありがとうございました!
また『朝をつれてこい』についても書きます!!
P.S.
そしてTwitterといえば!広報助手の子が作ったこれがめちゃくちゃ凄いです……!
これ、毎公演あったらいいなと思うやつです……。周辺のおすすめお店情報!
☀️#劇団晴天 第十回公演☀️
じゃーん!
公演会場、シアター風姿花伝の周辺マップです!会場まではちょっと歩きますが、目白駅からがおすすめ🚶♀️
美味しいお店がたくさんありますよ🍽
ぜひ見てみてくださいね👀#目白 #ごはん #広報助手 pic.twitter.com/S9oxTMsScd— 劇団晴天 (@25wayp) May 11, 2019
私のおすすめはここに掲載されているケーキ屋さん(ここだけ行ったことあった)なんですが、めちゃくちゃおいしいです。目白駅から結構歩くので、移動中の楽しみに、また2本立て通し観劇の合間に、ご活用いただければと思います。
私も参考にして食べに行きます!!!