観劇

【ゲネ感想】2223project produce 劇団晴天『共演者』 誰かを許せる自分でいられるか。

半年ちょいぶりのブログ更新がまたしても劇団晴天のゲネ感想!ご無沙汰しております。木村恵美子です。
今回は下北沢楽園にて上演中の、2223project produce 劇団晴天『共演者』のゲネプロを観て感想を書いてほしい、と劇団晴天主宰の大石君(作・演出)に頼まれましたので、じっくりじっくり、書いていきたいと思います。大きなネタバレは▼みたいなボタンで開閉できるように隠してありますが、全編地味にネタバレしておりますので、ネタバレしたくない方は観劇後にご覧ください。

木村恵美子って誰だ!
私を知らない方のために自己紹介をしますと、
木村恵美子と申します。kazakami(カザカミ)という劇団?ユニット?を主宰している劇作家・演出家で、大石くんとは王子のDWS(ディレクターズワークショップ)で出会いました。近年ではこまばアゴラ劇場の演劇学校、無隣館に参加して)、そこで演劇の勉強をすると共にWEB企画として写真と稽古場日誌を書くWEBメディアを運営してきました(青年団入団後も続けさせていただいております)。それでその流れで、似た活動をもっと外でも出来ないかな、と考えているところで、大石くんからお声掛けいただきました。あと、最近はあんまり貢献出来ていませんが、アマヤドリという劇団で劇団員として演出助手に明け暮れてもいました。まあ、その、なんだ、演劇バカの一人です。

前回公演、『遠くまで来たんだ』/『朝をつれてこい』の感想も書きました。また頼んでくれました。嬉しいです。

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劇団晴天主宰の大石くんとは同い年なので、学校が同じわけでは無いのですが、なんとなく同期感を抱いております。そんでもって同期感を放っておいても、大石くんの作る演劇が私は好きなので、せっかくの機会なので大いに推していきたい所存です。彼みたいな王道がちゃんと書ける作家が評価されて欲しいのです……。絶妙なバランス感覚で良い芝居を書く人なのです。最近は人に「おすすめの劇団ある?」って聞かれたときは、結構あげてる劇団です。劇団のポリシーとしてハッピーエンドの方向に向かう作品が多いのもどんなときにも安心して足を運べる理由です。ハッピーエンド、しんどい日々には超重要です……。観劇初心者にも安心して勧められる、数少ない劇団です。

さて、さて。『共演者』の話をしましょう。

この『共演者』という作品は、2018年の12月に池袋のスタジオ空洞で『曇天短編集』という公演の、短編の1本として上演されたものを、今回リライトして上演するものとなります。私がこの作品から獲たものは、失敗も引き受ければ、受け止めれば、またそこから前を向ける。という希望だと思います。

メインになるのは4人の女優。舞台は劇場の楽屋。

公演情報をサラッと拝見しただけでは、清水邦夫の『楽屋』に似てるのかしら?と思ったのですが、似てるのは舞台美術だけでした。

女優4人は高校の演劇部の同級生。そのうち3人は一緒に劇団を旗揚げして、そのうち一人は脚本・演出も担当。そしてもう一人の同期は、劇団には参加せずタレント活動をしている。作品の始まりは、そのタレント活動をしている同期を迎えた念願の4人芝居をさあもうすぐ上演しましょう、という、そういう楽屋。

そのタレント活動をしている同期、ショウのストーカーから殺人予告が届いていた。

「観客全員を殺す」

という。そんなの、どうしたらいいのか。

脅迫によってアートイベントが脅かされる。というのは昨年大変問題にもなりましたが、たまったもんじゃないですよね。本当に。今回の作中でもメンバーに大打撃を与えます。

 撮影:保坂萌

『共演者』は3場構成なのですが、1場はとにかく情報量が多くて、一瞬も余すことなく楽しいです。問題がいくつもあってレイヤーが何層にも重なっているし、誰と誰が付き合っている、とか、なんて呼んでいるの、とか、女子トークが可愛らしい。また隙あらば笑いを突っ込んでいこうという作家の姿勢、好きです。また楽園の狭い舞台に次から次に人が出てくるんですけど、あの存在感ばかりの柱にも、独特の舞台構造にも負けず、ちゃんと見やすく整理されてるし、怪我するんじゃない!?みたいなシーンも安全に配慮されている。ぐぬぬ……といいたくなるばかりの隙のなさ。

女性らしさ、男性らしさの話
あと、今回は男性作家の大石くんが女性の関係性を描いているところも作品の特徴に挙げられると思います。女性らしさがどうの、男性らしさがどうのと作家のジェンダー論って話も昨今あると思うのですが、そうは言ってもやっぱり、女性が書く女性像と男性が書く女性像って違うと思うんですよね、逆もまたしかりですが。そこで、以前、男性が書く女性像は女性にとって共感が難しい、という私もまた多く出てくるものなんですけど、でも、今回の『共演者』を観て、男性が書く女性像って、さっぱりしてて良いこと度々ありますよねえ、と改めて思いました。(そう言うと前述の清水邦夫さんの『楽屋』は、本当に男性が書いたの!?ってレベルでドロドロなんですが、それはそれ、です)

今回特筆すべきこととして、やっぱり女優4人のキャラクターがあると思います。

 撮影:保坂萌

まず、作・演出を兼ねているまなみ。熱いキャラです。人物造形があんまり女の子女の子してないんですけど、ふと女の子らしい描写があって、ギャップがあるのが素敵。作中に描写は無いけど高校時代は部長だったのではないか!?全体の物語的には主人公ポジション。演じるのは近藤陽子 (劇団AUN)さんです。

 撮影:保坂萌

次に、佐藤沙紀さん演じるコング。コングて。学生時代のあだ名あるあるだけども!!全編通してコングネタを貫く作家のこだわりに脱帽です。団体における緩衝材的ポジションだと思います。こういう人、いてほしいんですよね、全ての組織に……。多分学生時代に「部のお母さんポジション」とか言われてると思う。

 撮影:保坂萌

それから、白石花子 (劇団民藝)さん演じるやっちゃん。こういう人も、いる……。だれ、とは思い当たらないんですが……。看板女優ポジションですね。きっと部でも尊敬される先輩だったのだと思います。作中に彼女の葛藤がいくつも現れて苦しいです。難しい……。

 撮影:保坂萌

そして最後に、鈴木彩乃 (劇団晴天)さん演じるショウ。普段はタレント活動をしているけど、今回は同期との4人芝居ということで参加しています。本当は照(てる)という名前なのですが、あだ名は読みを変えてショウ。鈴木さんは劇団晴天の女優さんです。前回の2本立てでは別のお仕事で欠席だったので、拝見出来て嬉しいです。実は技術職系のお芝居……。普通に喋ってるところ見て改めてびっくりしました。詳しくは見てください。

この4人の関係性はとても整理されているなあ、と思いました。ある戯曲論も頭をよぎったんですが、容姿のバランス、情報のバラけかた、それぞれの性格がきれいにマッチしていて、凄い計算されているんですけど、同時に、凄く身近に居そうな現実味を兼ね合わせていて、これまでの劇団晴天の作品の中でも、とても印象に残る4人組だと思います。

作中の恋愛関係の話
作中に恋愛的な描写を入れると作家の恋愛観(もしくは性癖)がバレがちなのですが、今回バランスよく配分されているので隠せています。(隠すのが善では無いですが……。そしてどうでもいいですが……。)

あ、でも1点だけ私気になっているのです。恋人の事、変なあだ名で呼ぶ人ってどれくらいいるのでしょう?私の友人の多くはあんまり変なあだ名で呼んでる人っていないので、ここはなんだか客席で変ににやけて観てしまいました。みんな、私にバレてないだけで変なあだ名で呼んでいるのかしら……!?

あと性的な話題がネタとして挿入されているんですけど、女性だけでいるとそういう話題に突入することが稀にあるんですよね!(めっちゃ困ったりするんですよね!)でも、劇中でも書かれていますが男性が居る場でそういう話題になることって滅多にないんですよね。故に、

何でその空気を知ってるんや大石君……。

という気持ちでいっぱいだったりします。

 

そして、女優4人以外の話も。

 撮影:保坂萌

まずは4人の後輩で舞台監督のねむこ。めっちゃ好きです。さすが大石君、時折舞台監督をしていることもあり、全てが本格的。後輩ポジション的にも、めっちゃこういう子いる!と好感度高いです。めちゃくちゃ高いです。あと地味に芝居の安定感で全編が支えられています。演じるのは角田悠さん。

それから男性陣。

 撮影:保坂萌

まず、函波窓 (ヒノカサの虜)さん演じるかーくん(かーくんって何)。あえて、申し上げますが、木村殺しです。佇まいがめっちゃ好き……。函波さん、『朝をつれてこい』でもめっちゃ良かったので、晴天で良い役をもらいがちなのではという気持ちです。戯曲上も細かい設定が好きな役で、にやにやしてしまいます。しかし函波さん、前回公演と見た目が違い過ぎます(主に髪型)。最初誰だかわかりませんでしたよ……。本人的推しヘアスタイルはどこなのか気になるところです。

 撮影:保坂萌

次に、田中孝宗 (劇団俳優座)さん演じる青木さん。めちゃくちゃおいしいですよねこのポジション……。”バカだけど芝居が上手い”という設定だそうです。全編通して残念な人物像ながら人の好さが際立っているのですが、後半に向かうにつれてバカ要素が強くなってきます。だんだん、”名前が出るだけで面白い”事態になってきて、とても良いです。

 撮影:保坂萌

それから、荒木広輔さん演じる都倉さん。登場人物のほとんどに関係している芸能プロダクションの人です。彼だけシチュエーションコメディ(ちょっと違うけど)。どんどん”巻き込まれポジション”になっていきます。キーワードは「常識」。彼の持参するお土産が絶妙に面白いので、是非ご注目ください。

 

今回、そうだよねえ、生きるって色々大変だよねえ、と思わされる作品ではあるんですけど、でも、今回も「劇団晴天」の名の通り、観劇後に、
よし!自分も頑張るぞ!
と思える仕上がりで、自分は好きです。バックステージものではありますが、専門用語は最低限におさえ、演劇に詳しくない人でも理解できる親切設計で、おすすめしやすい作品だと思います。客席は2方向あって、それぞれに2人分ずつ女優さんの席があるので、もし推しの女優さんがいる場合は、「誰がどこに座りますか?」と聞いてみても良いと思います。そして見えないところも出てきてしまうのですが、柱の近くが女優さんみんなの顔が見やすいと思います。

 撮影:保坂萌

今作は誰もが何かしら失敗をします。でもそれが、その先に魅力になったり、結果的に良い方向に向かったりします。特に、物語の終盤にまなみが言うセリフが素敵で、あれによって私の中で色々な事柄が繋がって、この瞬間の為だけに今までの時間があったと言っても過言でないほどに、とても感激しました。
そして今作の秀逸なのはきっと、失敗をする空気、それを許していく空気、が人と人の関係の中でその場に構成されている、ということなんだと思います。あと、仲間がいるってことなんだと思います。時には、ふがいない自分をかかえて、他人を拒絶してしまいたくなる時もある。言いたくなかったことを言ってしまうことも、正解が分かっているのに、行動に移せないこともある。でも誰かの失敗さえも引き受けて、一緒に抱えていける関係性、とか、叱ってくれるだれか、とかも実は近くにいてくれて、そういうものが、そういう視点がこの作品にあって、そこにとても希望がある。
生きていくうちに自己肯定感が削られる日々ではありますが、自分や、周りをもう一度信頼しなおせるような、そんな作品に仕上がっていると思います。今回も、おすすめです。

 撮影:保坂萌

ここまで読んでくださった方、長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
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